こんにちは、消化器内科医のべっちょむです。
前回はピロリ菌の発見エピソードから感染経路、感染により発症し得る疾患についてお話しました。
今回は、ピロリ菌の診断方法や除菌治療、治療後の注意点などについて解説したいと思います。
この記事を書いた人
べっちょむ先生
資格:内科専門医、消化器病専門医、消化器内視鏡専門医、肝臓専門医。FP2級、簿記3級。
消化器内科を専門とし、病気だけでなく患者さんを幅広く診れる医師でありたいという思いから、2024年4月から訪問診療を行っています。
一児の父。映画鑑賞と温泉が至福の時。ゴルフとキックボクシングもやってます。
1 ピロリ菌の診断方法
自分の胃の中にピロリ菌がいるかどうか、気になると思います。診断方法には大きく分けて胃カメラを使う方法と使わない方法に分けられますが、各施設によって採用している検査方法が違っていたり、プロトンポンプ阻害薬(PPI)やカリウム競合型アシッドブロッカー(P-CAB)を内服していると正しい検査結果が出ない検査もあるので注意が必要です。
①胃カメラを使う方法
胃カメラを使う方法としては迅速ウレアーゼ試験と鏡検法と培養法がありますが、よく用いられる迅速ウレアーゼ試験をご紹介します。
1. 迅速ウレアーゼ試験(RUT)
これはピロリ菌が有するウレアーゼにより尿素が分解されてアンモニアが生じることでpHが変化することを利用した検査方法です。胃カメラで組織を2ヶ所採取して行うので、胃癌や潰瘍がないか分かる反面、ピロリ菌のいないところを採取した場合や、PPIやP-CABを内服している場合は偽陰性となることがあるので注意が必要です。あと、治療後の効果判定では結果にばらつきがあるため用いられません。
・長所
胃カメラのついでに出来るので胃癌や潰瘍がないかどうかが分かる。
・短所
胃カメラをする必要がある。
ピロリ菌のいないところを採取すると偽陰性の可能性がある。
PPIやP-CABを内服時にはできないため、2週間の休薬が必要。
治療後の効果判定には不適。
②胃カメラを使わない方法
一方で、胃カメラを使わない方法としては主に以下の3種類があります。
1. 血清抗体検査
血液検査でピロリ菌の抗体を見る検査で採血で可能なので簡便に出来ますし、ピロリそのものをみているのではなく免疫反応を測定しているのでPPIやP-CABを内服していても大丈夫です。注意点としては、ピロリ除菌をした後にも陰性化するのに一年程度要するため除菌の判定には向いてません。あと、細かいところですが抗体価が10U/mL以上であれば陽性の診断になりますが、3~10U/mLのグレーゾーンでも20%弱の感染者が存在するため、検査結果が陰性であっても抗体価まで留意してグレーゾーンであれば他の検査で感染の確認を行った方が良いです。
・長所
血液検査で分かるので簡便。
PPIやP-CABを内服していてもOK。
・短所
除菌後も一定期間は陽性が持続するため、治療後の効果判定には不適。
抗体価のグレーゾーンがあり注意が必要。
2. 尿素呼気試験(UBT)
これは尿素を含んだ錠剤を内服して20分後に息を吐いてその呼気中に含まれる二酸化炭素を測定する方法で、RUTと同様にピロリ菌のウレアーゼ活性を利用した検査です。PPIやP-CABを内服している場合は偽陰性となることがあるので2週間の休薬が必要です。注意点としましては、食事で胃の中がコーティングされると正しい結果が出ないので検査前6時間は絶食にする必要があるため朝一の検査が望ましいことと、喫煙も検査に影響を与えるので30分は空けるようにしてください。除菌後でも精度が高く、効果判定にも用いられます。
・長所
除菌後の効果判定にも使える。
・短所
検査前6時間の絶食、30分間の禁煙が必要。
PPIやP-CABを内服時にはできないため、2週間の休薬が必要。
3. 便中抗原測定法
最後に便中抗原検査ですが便に含まれるピロリ菌を測定するもので、PPIやP-CABを内服している場合は偽陰性になるため2週間の休薬が必要です。欠点としては便を採取しないといけないので面倒であることと、便秘の方で外来日に検体を提出できないこともたまにあるので心配な方では検査前に下剤を処方することもありますが水様便では希釈されて偽陰性になることがあるので注意が必要です。また、除菌の効果判定にも用いられます。
・長所
除菌後の効果判定にも使える。
・短所
便の採取が面倒、便秘で検体を提出できないこともある。
PPIやP-CABを内服時にはできないため、2週間の休薬が必要。
2 除菌治療について
除菌治療について、除菌前に胃カメラをしないと保険適応にはなりません。というのも、もし胃カメラで胃癌があった場合、除菌しても癌には効果がなく癌の治療を優先しないといけないからです。国の方針として出来るだけ医療費を削減する必要がありますし、患者さんにとっても無駄な治療は避けるべきなので除菌前には必ず胃カメラをするようにしましょう。ちなみにバリウムでは保険が通りません。
除菌療法
除菌の方法はとても簡単で、抗生物質と胃酸を抑える薬を1週間飲むだけです。
このように、シートになっているので分かりやすいですね。中途半端に飲んでしまうと除菌不成功になることがあるので、1週間はしっかり内服するようにしてください。1回目の除菌での成功率は8-9割で、除菌失敗した場合は薬の内容を変えて同じように1週間の内服治療を行います。これを2次除菌といい2次除菌まで行った場合の成功率は98%でほとんどの場合は成功するのですが、これでも除菌できない場合は3次除菌を検討します。3次除菌からは自費になります。
除菌による副作用
除菌治療による副作用は多くはないのですが市販後の大規模試験で4.4%の報告があり、下痢と味覚障害が多いです。下痢が心配な方は除菌薬と同時に整腸剤の内服を併用すると予防効果があると言われています。味覚障害については多くの場合、2-3日でおさまります。あと、二次除菌ではメトロニダゾールという抗生物質を用いるのですが飲酒により頭痛や嘔吐、ほてりなどが生じることがあるので二次除菌では禁酒をしないといけません。また、高齢者で副作用が多いということはなく、高齢のために除菌を控えるという必要はありません。
Fujioka T. J Gastroenterol 2012; 47: 276-283.
除菌後効果判定
胃潰瘍の患者さんでかつてピロリ菌の除菌をしたとおっしゃる方が時折いらっしゃいますが、よく聞くと除菌後の効果判定検査をしていないということが少なくありません。一次除菌で成功する割合は8-9割程度なので残りの1-2割は失敗していて本人は治療したつもりでもまだピロリ菌がいるということは少なくないので、せっかく除菌治療をしたのであれば効果判定までしっかり行うようにしてください。施設により検査方法は異なることがありますが、基本的に除菌後4週間以降に尿素呼気試験か便中抗原測定法で行います。
3 除菌成功後の注意点
胃カメラのフォローが必要
除菌が成功すれば胃癌のリスクが3分の1まで低下すると言われており、潰瘍のリスクも10分の1程度まで低下させることができます(ただし、潰瘍に関してはピロリ菌以外にロキソニンなどの痛み止めの内服でも起こります)。
逆に言うと除菌成功したとしても今までに感染していない方と比較すると胃癌のリスクは高くなってしまうので完全には安心できないのです。これは幼少期にピロリ菌に感染してから胃の粘膜の変化がすでに起こってしまっているためで、除菌後の方でも年一回程度の定期的な胃カメラのフォローは必要です。
ピロリ菌検査はもう必要ない
ピロリ除菌成功した後にピロリ菌に再感染したり再度陽性化することは1%以下といわれており、一度除菌成功した後はピロリ菌検査を行う必要はありません。特に血清抗体検査では陰性化するのに1年程度かかるので偽陽性となることがあります。
4 まとめ
後編ではピロリ菌の診断方法や除菌治療、治療後の注意点などについて説明しました。
検査の注意点が細かいところが色々あってややこしいかもしれませんが、分からないことがあれば質問して頂いたりかかりつけの先生に伺って頂ければと思います。なにより、まずはピロリ菌がいるかどうかを調べつつ一回は胃カメラでも胃の中の状態を見ておくことがとても大事ですので、この記事がそのきっかけになればうれしく思います!
コメント