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肝硬変の治療

こんにちは、消化器内科医のべっちょむです。

肝硬変の病態や検査方法などについてご説明してきましたが、今回は肝硬変の治療について解説していきたいと思います。

この記事を書いた人

べっちょむ先生

資格:内科専門医、消化器病専門医、消化器内視鏡専門医、肝臓専門医。FP2級、簿記3級。

消化器内科を専門とし、病気だけでなく患者さんを幅広く診れる医師でありたいという思いから、2024年4月から訪問診療を行っています。

一児の父。映画鑑賞と温泉が至福の時。ゴルフとキックボクシングもやってます。

目次

1 肝硬変の治療について

肝硬変なったらもう元には戻らないみたいですけど、治療方法はあるのかな?

肝硬変になると残念ながら元の健康な肝臓には戻りません。根本治療として肝移植という方法もありますが日本ではなかなか現実的には難しいのが現状です。

肝硬変は放っておくとさらに肝機能が低下したり癌が出てきたりサルコペニアといって筋力が低下したりと良くない状態になっていきます。そうならないように予防対策すること、また個々に出てきている症状に対して対症療法を行うことが治療の中心になります。

2 各症状に対する治療

①黄疸、掻痒感

肝臓の機能が低下するとビリルビンという物質が代謝できずに蓄積して黄疸になることがあります。ビリルビンによって痒みが出ることがあり、痒くて「夜眠れないほどつらい」ということもあります。治療はまずは保湿が大事で抗ヒスタミン作用のあるレスタミンクリームを痒いところに塗り、追加で抗ヒスタミン薬を内服していただきます。

ヒスタミンとはアレルギー様症状を引き起こす化学物質のことです。

しかし、肝臓が原因の痒みにはアレルギー薬が効きにくいこともあり、効果が十分でない場合はナルフラフィン(レミッチ)という作用機序の異なるお薬が開発されており効果が期待できます。ただ、やや高額な薬になりますので効果が乏しい場合は早めに中止を検討します。

②腹水、浮腫

肝硬変でアルブミン合成が低下すると血液中の水分が漏れ出て腹水や足~全身の浮腫みが出てきます。

これに対して、塩分を採りすぎると余分な水分を摂取してしまいますので、まずは塩分制限(5~7g/日)を行います。

塩分制限だけで改善するのは全体の10%程度といわれており、改善しない場合には利尿薬(スピロノラクトン、フロセミド、トルバプタン)を内服して尿から余分な水分を出すようにします。

水分制限は1L/日が目安とされています。腹水が溜まると水分を控えたくなると思いますが過度の水分制限は脱水の原因になりますので注意してください。

利尿薬を十分量内服しても改善しない場合でお腹がパンパンに張ってきて我慢できないという場合には、腹水穿刺で一度に大量の腹水を抜く方法があります。但し、腹水の中にも栄養分が含まれており抜いてしまうことでさらに腹水が溜まってしまうという悪循環になりますので、最終手段としての位置づけになります。

抜いた腹水の中の栄養分(アルブミン)だけを濾過抽出して血中に投与するCARTという方法もあります。理論上、効率よく腹水コントロールを行える方法になりますが、可能な施設が限られ、腹水が感染している場合は禁忌になります。2週間に1回が保険適応になっています。

③消化管静脈瘤

肝硬変になると肝臓に血流が行きにくくなり、滞留した血液が静脈の瘤(こぶ)を作ることがあります。あらゆる部位で起こり得るのですが、特に食道で起こりやすく胃や直腸も次いで起こりやすい部位になります。症状はないのですが、破裂すると吐血したり大量出血するため生命が脅かされる状態になります。ですので、その前に破裂するような可能性のある静脈瘤は治療しておく必要があります

ぶくぶくしているのが食道静脈瘤です。

EVLで輪ゴムをかけたあとの状態(おダンゴみたいになってますね)。

治療方法は、内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)が一般的で、静脈瘤に輪ゴムをかけて静脈瘤を縮小させます(輪ゴムは1週間ほどで自然に脱落します)。その他にも静脈瘤に硬化剤を注入する内視鏡的静脈瘤効果療法(EIS)やバルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(BRTO)という方法もあり、それぞれの病態に適した治療方法を選択します。

④肝性脳症

肝臓でアンモニアの解毒が上手くできずに溜まったアンモニアが脳に上がると肝性脳症を発症して認知症のような症状が出たりひどい場合は昏睡状態になることもあります。肝性脳症になった場合は入院でBCAA製剤(分岐鎖アミノ酸製剤:アミノレバン)などの点滴治療を行います。

また、肝性脳症を発症する場合、肝硬変+脱水や消化管出血、感染症、便秘、血流シャント(異常血管)など何らかの原因があることがほとんどですので、それぞれの原因に対して予防治療を行います。

脱水:水分補給、補液
消化管出血:内視鏡的止血
感染症:抗生剤、ドレナージ
便秘:ラクツロースなどの緩下剤
血流シャント:血管内治療(カテーテル治療)によるシャント閉塞術

その他にも、蛋白過剰摂取を控えたり、難吸収性抗生剤(リファキシミン)、カルニチン製剤、亜鉛製剤などを使用することもあります。

腸内細菌でアンモニアが産生されることが分かっており、肝硬変の方が便秘になると肝性脳症の原因となります。ラクツロースという緩下剤は腸内でアンモニアの産生や吸収を抑えるとともに便秘も改善する作用があるのでうってつけの薬です。また、リファキシミンは難吸収性ですので大腸まで届き、アンモニアを産生する腸内細菌をターゲットに抗菌してアンモニアを低下させます。

3 栄養療法

肝硬変患者の多くは蛋白・エネルギー低栄養状態にあり、栄養療法により予後やQOL(quality of life:生活の質)が改善するといわれています。

①食事管理

肝硬変の方は低栄養状態ですので十分なエネルギー確保(25-35kcal/kg)と蛋白質補充(1.0-1.5g/kg)が必要です。

早朝空腹時は健康人が2-3日絶食したのに相当する飢餓状態に陥るといわれています。

できるだけ絶食時間を短縮することが大事で睡眠前軽食(LES:Late Evening Snack)というものが推奨されてます。これは夜寝る前に200kcal程度の炭水化物を主体とした軽食を摂取することでおにぎりなんかを摂取するだけで十分です。

②BCAA製剤(分岐鎖アミノ酸製剤:アミノレバン、リーバクト)

BCAA製剤の中でアミノレバンリーバクトという2種類の薬剤があります。両方とも必須アミノ酸(体内で合成されずに食事で摂取する必要のあるアミノ酸)が含まれており、栄養の補助として用いられます。リーバクトには分岐鎖アミノ酸のみ含まれますがアミノレバンには他にも糖質や脂質も含まれておりカロリー量が多く食事摂取量が十分でない方に適応となります。一方でリーバクトは食事摂取できているけど栄養状態が不良という方に適応となります。

また、肝性脳症の場合は食事制限により不足するエネルギーや栄養素を補う目的でアミノレバンが適応となっています。

③亜鉛製剤

肝硬変の患者さんはアルブミンが低下することや食事摂取量低下、腸管からの吸収低下などの原因で血中の亜鉛が低くなりがちです。亜鉛が低下すると肝臓がさらに線維化(シワシワで硬くなること)して肝臓癌の発症率も高くなります。また、アンモニアの解毒に亜鉛が必要になるため肝性脳症を助長する原因にもなります。

そのため、亜鉛が低くなっている場合には亜鉛の補充が肝要で、内服で補充します。

4 まとめ

今回は肝硬変の治療について解説してきました。

肝硬変になると健康な元の肝臓に戻すことは難しいのですが、栄養療法や薬物治療でさらに進行しないようにすることが大事になります。肝硬変といわれた場合、「症状がないから」、「もう元には戻らないから」といって治療を受けないのは良くありません。適切な治療を受けて定期的に専門科の外来でフォローしてもらうようにしてください

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