こんにちは、消化器内科医のべっちょむです。
「逆流性食道炎」って言葉、聞いたことある方多いんじゃないでしょうか。
今回は、逆流性食道炎の原因や症状、治療法について解説していきたいと思います。
自分でできる予防法も説明していきますので、是非参考にしてください!
この記事を書いた人
べっちょむ先生
資格:内科専門医、消化器病専門医、消化器内視鏡専門医、肝臓専門医。FP2級、簿記3級。
消化器内科を専門とし、病気だけでなく患者さんを幅広く診れる医師でありたいという思いから、2024年4月から訪問診療を行っています。
一児の父。映画鑑賞と温泉が至福の時。ゴルフとキックボクシングもやってます。
1 逆流性食道炎ってどんな病気?
まず、逆流性食道炎とは一言でいうと、「胃酸が食道に逆流して食道に炎症を起こす疾患」です。
胃の中には胃酸という強い消化酵素が存在していますが、胃は胃酸から自分を守るために粘液を産生しています。しかし、食道にはそのような粘液産生はされないため胃酸が食道に上がってくると炎症を起こしてしまうわけです。
元々、胃と食道の間は横隔膜で区切られており、下部食道括約筋という筋肉で締められているのですが、この締め付けが緩くなると胃酸が食道に逆流しやすくなります。締め付けが緩くなり胃が食道の方に上がってくる病態を食道裂孔ヘルニアといい、逆流性食道炎と密接に関連しているといわれています。
また、締め付けが緩くなる原因としては、食べすぎや肥満、加齢、姿勢など様々ありますが生活習慣が大きく関わっています。ちなみに、日本での有病率は成人で約10%程度で緩やかに上昇傾向にあります。
2 逆流性食道炎の症状は?
次に、逆流性食道炎の症状について、
よくあるのが呑酸(胃酸が返ってくる感じ)や胸やけですが、胸のつかえ感や胃痛、胃もたれなどの症状もあります。
胃酸が喉元まで上がってきた場合は、咳や喉のイガイガ感、嗄声(しわがれ声)といった症状が出ることもあります。
また、非常に高度の逆流性食道炎の場合には出血による吐下血を起こしたり、消化管穿孔、狭窄、瘻孔形成を認めることもあります。
3 逆流性食道炎の診断
診断は胃カメラで食道と胃の境目を見ることで容易に出来ます。
でも、胃カメラでの炎症の程度と症状が相関しないことも多く、高度に粘膜が障害されていても症状がないことや胃カメラで特に異常がなくても症状が強いということもあります。
正式には、胃カメラで粘膜障害を認めるものを「逆流性食道炎」、症状があっても胃カメラで異常を認めないものを「NERD」といい、逆流性食道炎とNERDを合わせたものを「GERD」といいます。
4 逆流性食道炎の予防と治療法
逆流性食道炎の予防と治療法には大きく分けて①生活習慣の改善と②薬物療法があります。
①生活習慣の改善
逆流性食道炎の病態には生活習慣が関与していることが少なくないため、ご自身で改善を心掛けて治療できることも多い疾患です。胃酸逆流予防として特に有効とされているのは、ⅰ)肥満者に対する減量とⅱ)喫煙者に対する禁煙、ⅲ)夜間症状出現者に対する夜食の回避が挙げられます。
ⅰ)肥満者に対する減量
お腹の脂肪が増えると腹圧が上がって胃酸が逆流しやすくなりますので、まずは減量(ダイエット)が大事です。
肥満のない方であっても、食べ過ぎると胃の内容物が増えるので物理的に食道に逆流しやすくなるので、腹八分を心掛けるようにしてください。そして、食べたものが消化されずに胃の中で残っていることも逆流の原因になるので、消化に良いものをよく噛んで食べることも大事です。ちなみに三大栄養素では蛋白質→炭水化物→脂肪の順に消化に良いとされています。
あと、食事内容としては、炭酸飲料やお酒(特にビール)は胃が膨らみやすくなり、酸っぱい食べ物や糖分、コーヒーなどは胃酸の産生量が増えるので注意が必要です。
ⅱ)喫煙者に対する禁煙
喫煙は下部食道括約筋を緩ませる作用があり、禁煙することで症状を和らげることができるので喫煙されている方は禁煙が有効です。しかし、肥満の方では禁煙だけでは効果が乏しく、やはり減量がより重要とされています。
ⅲ)夜間症状出現者に対する夜食の回避
食べてすぐに横になると胃の中のものが上がってきやすくなりますよね。そこで、寝る前4時間は食事を控えることが就寝中の症状を軽減できることが示されており、特に寝ている間に症状がある方は夕食の時間を早めにすることによって改善が期待できます。また、頭を上げて就寝することも症状軽減に有効です。そして、寝る態勢も右を下にして寝ると胃の内容物が上がってきやすくなるので左を下にして寝る方が良いです。
ⅳ)その他
また、他にも早食いや猫背、前傾姿勢、ベルトの締めすぎなども逆流性食道炎のリスクになりますので心当たりのある方は気を付けるようにしてください。
②薬物療法
症状が強い場合や生活習慣の改善ではなかなか症状が良くならないという場合には薬物療法を行います。
逆流性食道炎に対する薬での治療としては、酸分泌抑制薬(PPI、P-CAB)、運動機能改善薬があります。
ⅰ)酸分泌抑制薬(PPI、P-CAB)
これは、胃酸によって食道に起こった炎症を抑えるもので根本的な原因に対する治療ではないのですが症状の改善には非常に有効です。
具体的な薬品名は以下のようになります(カッコ内は商品名)。
PPI:オメプラゾール(オメプラゾール)、ランソプラゾール(タケプロン)、ラベプラゾール(パリエット)、エソメプラゾール(ネキシウム)
P-CAB:ボノプラザン(タケキャブ)
注意点としては、長期内服による副作用として、下痢や腎障害、骨折、肺炎、認知症などの可能性が懸念されており必要に応じた最小限の用法を心掛けるべきとされています。炎症があるときに内服して、改善が得られれば生活習慣の見直しで再発を予防するのが良いでしょう。
とはいっても、難治例や再発を繰り返す場合には躊躇せずに注意しながらも長期の内服を行うようにしましょう。
稀ではありますが、酸分泌抑制薬を長期に内服しても改善しない場合には腹腔鏡下逆流防止手術を行うこともあります。
ⅱ)運動機能改善薬
逆流性食道炎は胃の中に食べたものが溜まりやすくなるため、運動を促進することで改善が期待できる場合があります。
具体的には、以下の薬剤があります(カッコ内は商品名)。
モサプリド(ガスモチン)、六君子湯、半夏瀉心湯、アコチアミド(アコファイド)
ただし、運動機能改善薬はPPIとの併用で症状改善効果が得られるというエビデンスはあるのですが、単独での効果に関してはまだエビデンスは得られておりません(胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2021)。
5 まとめ
今回は逆流性食道炎について説明させていただきました。
逆流性食道炎の炎症自体は基本的に薬で治療できることはできるのですが、生活習慣を改善することで自分で予防や治療が期待できる疾患ですので、是非取り組んでいただければと思います。
ただし、呑酸や胸やけなどの症状があっても必ずしも逆流性食道炎というわけではなく、胃癌や食道癌があって食べ物が十分に通過できていない場合や好酸球性食道炎やアカラシアなど稀な疾患が隠れていることもあります。
これらは胃カメラを行うことで診断できますので、症状がある場合はまず一度消化器内科の先生に胃カメラで診断してもらうようにしてください。
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