こんにちは、消化器内科医のべっちょむです。
今回は便潜血検査についてお話ししたいと思います。
便潜血検査で陽性になって不安、どうしたらいいの?、とか陰性だったけど本当に大丈夫なの?など疑問に思っておられる方もおられるのではないでしょうか。難しい話はあまりありませんし、みなさんの疑問にお答えできるように解説していきますので是非参考にしていただければと思います。
この記事を書いた人
べっちょむ先生
資格:内科専門医、消化器病専門医、消化器内視鏡専門医、肝臓専門医。FP2級、簿記3級。
消化器内科を専門とし、病気だけでなく患者さんを幅広く診れる医師でありたいという思いから、2024年4月から訪問診療を行っています。
一児の父。映画鑑賞と温泉が至福の時。ゴルフとキックボクシングもやってます。
1 便潜血検査とは
そもそも便潜血検査とは、
よく検診なんかで便潜血検査をしたり、されている方をみたことがあるんじゃないでしょうか。健康な方で大腸癌を引っかけるために用いられる検査ですね。具体的には、2日間に分けて便の表面をこすって血液が混じっていないかを確認する検査です。ちなみに、40歳以上の方が毎年便潜血検査を行うことで、大腸癌の死亡率を60-80%低下させることができると報告されています!
2 便潜血検査の目的
そもそも大腸癌は予後がそこまで悪くない癌であり、早期で見つかれば内視鏡で治療出来ることも多く、進行癌でも手術で切除できれば5年生存率は低くはないのです。しかし、肺や肝臓など他の臓器に転移してしまっている場合、いわゆるステージⅣでは5年生存率はとても低くなりますので、より早期の発見と治療が重要になります。
しかも、日本人の男性の10人に1人、女性の12人に1人が生涯で一度は大腸癌と診断されており、罹患率がとても高い癌なのです。
もちろん、診断には下部消化管内視鏡検査(いわゆる大腸カメラ)が必要です。大腸カメラを全員に行うことができればいいのですが、現実的には内視鏡医の数も足りませんし患者さんの負担も大きくなるので、大腸カメラをするべきかどうかの振り分けに便潜血検査が用いられています。
ちなみに、便潜血検査はヒトヘモグロビンに対する抗体を測定しているので血の付いた肉を摂取した場合では検出されませんし、胃酸の影響で変性するため胃や十二指腸など上部消化管からの出血は検出されません。
3 便潜血検査が陽性になったら
①便潜血検査が陽性
便潜血検査を行って陽性になった場合、
出来るだけ早めに大腸カメラ検査を受けるようにしましょう!
中には、痔があるから、生理中だったから陽性になったんだろうといってカメラを先延ばしにする方もいらっしゃいます。確かに、痔や生理によって便潜血が陽性になることもありますが、ポリープや大腸癌がないかどうかは大腸カメラをしないとわかりません。
ちなみに、大腸カメラ以外にも注腸造影検査や大腸CT検査など代替となる検査は存在しますが、やはり精度では大腸カメラには劣ります。また、腫瘍マーカーを気にされる方も多いと思いますが、進行大腸癌でも腫瘍マーカーが正常であることも全然珍しくないので一つの指標として参考にする分には良いかもしれませんが決して大腸カメラを受けない理由にはなりません。
②便潜血陽性時のポリープ、癌の発見率
そして、実際便潜血陽性になった場合にどれくらいの割合でポリープや癌が見つかるのかというと、
2017年に日本対がん協会が行った約250万人を対象とした大腸がん検診の結果では、
便潜血陽性となったのは全体の6%で、その中で大腸癌が見つかったのが約2.86%、ポリープが見つかったのが約19.3%でした。
ですので、便潜血が陽性の結果であっても癌が見つかるのは数%程度であり、必ず大腸カメラは受けていただきたいのですが極端に恐れる必要はありません。便潜血検査は微量な血液も拾うので痔や腸炎、生理中でも陽性になることがありますし、何もないことも多いんですね。
4 便潜血検査が陰性だったら安心?
次に、逆に便潜血検査で2回とも陰性であった場合はどうでしょうか?
そもそも、便潜血検査は便に付着している血液を高精度で測定する方法なのですがポリープや早期大腸癌では出血しないことも多いため拾えないことも多々あります。進行大腸癌であれば出血していることがほとんどであり高い確率で拾えるのですが、たまたま血液が付着していないところを採取してしまっていた場合やトイレの洗浄水に浸って洗浄水に含まれる消毒液の影響で正しく判定できないこともあります。
便潜血2回法で進行大腸癌の80-90%、早期大腸癌の50%を発見できると言われていますが、逆に言うと進行癌の10-20%、早期がんの約半数が見落とされてしまうということです。ですので、便秘や便が細くなってきている場合や腹痛等の症状がある場合は再度便潜血検査を行うか大腸カメラを行うようにしてください。
5 最後に
①日本での大腸がん検診の問題点
日本での便潜血検査の受検率は統計によってばらつきはありますが約20%ととても低く、さらに便潜血陽性と診断されてから二次検査として大腸カメラを受ける人の割合は50-60%と非常に低いのです。2回中1回だけ陽性だったから大丈夫だろうとか、痔や生理のせいだから大丈夫と決めつけてしまってはせっかくの早期発見のチャンスを逃してしまいます。
アメリカを例に挙げると、かつてアメリカは大腸癌死亡率が高い国でしたが、国の政策で50歳以上は無償で大腸カメラを1回受けられるようになり、便潜血検査と合わせると大腸がん検診の受検率は約70%もあります。そのおかげで大腸癌による死亡者数が減少し、今ではアメリカでは日本より3倍の人口がいるにも関わらず大腸癌死亡数は日本の方が多くなっているのです。日本は大腸癌による死亡率が高く、より積極的な検診受診を進める必要があります。
②便潜血検査は何歳から?
便潜血検査を含めた大腸がん検診は何歳から行うべきなのでしょうか?
このグラフにあるように、大腸癌は40歳から罹患率が増加し始め、50歳から急増しています。これを基に、健診や人間ドックでの大腸がん検診は40歳以上が対象となっています。
ただし、遺伝性の大腸癌も存在するため、家族に大腸癌の既往がある方などは40歳を待たずに早めに検査をしておくことをおすすめします。
まとめ
今回は、便潜血検査に関して一通り解説させていただきました。
大腸癌は早期発見で助かる可能性が高い疾患です。ですが、他臓器に転移してしまっている場合は予後不良となるため、とにかく早期発見が大事です。
今回の記事をきっかけに便潜血検査や大腸カメラを受ける方が一人でも多くなり早期発見につなげることができましたられば幸いに思います。
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