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肝細胞癌のすべて

こんにちは、消化器内科医のべっちょむです。

これまでは肝硬変について4回に分けてご説明してきました。

今回は肝硬変の中で最も注意しなければいけない合併症の一つである肝細胞癌についてまるっと解説していきたいと思います!

この記事を書いた人

資格:内科専門医、消化器病専門医、消化器内視鏡専門医

専門の消化器を中心に内科全般についてわかりやすく解説するブログです。

一児の父。映画鑑賞と温泉が至福の時。ゴルフとキックボクシングもやってます。

目次

1 肝細胞癌とは

肝臓の癌には大きく分けて肝臓から出現した原発性肝癌と他の臓器癌から転移した転移性肝癌があります。

原発性肝癌の約90%が肝細胞癌で残りの10%近くが肝内胆管癌というもので、一般的に肝癌と言うと肝細胞癌のことを指すことが多いです。

癌による死亡の中で肝細胞癌は世界的には第3位、日本では第5位(日本での死亡者数は年間約3万人)となっており癌死亡の上位を占めています。

2 肝細胞癌の原因と症状

①原因

肝細胞癌は何もない健康な肝臓から出現することは稀で、多くは慢性肝炎肝硬変の背景肝疾患を有する方に起こります。

原因としては、B型肝炎C型肝炎による肝炎ウイルスが約80%といわれており、その他はアルコール多飲や過食等によるNASH自己免疫性肝疾患等が挙げられます。

医学の進歩によりB型肝炎やC型肝炎のお薬が開発されてウイルス性肝炎による発癌率は低下傾向にあり、アルコール多飲やNASHによる発癌割合が多くなってきています(実数も増加しています)。

肝細胞癌全体でみると近年減少傾向にあります。

②症状

慢性肝炎や肝硬変の方は肝細胞癌のリスクがあるので定期的にエコー検査やCT/MRI検査を行うため、比較的早期に発見されることが多いです。早期発見の場合は無症状ですが、進行した場合でも肝硬変の症状(食欲低下、倦怠感、黄疸、腹水、肝性脳症など)はあったとしても癌自体による症状はあまりありません。

しかし、癌が門脈という血管に浸潤した場合は腹水が急激に増えたり、肺や脳、骨など他の臓器に転移した場合はそれぞれの症状が現れることがあります。

また、肝臓の表面近くの肝細胞癌では破裂することがあり、突然の激痛に襲われることがあります。

3 肝細胞癌の治療

肝硬変の重症度を表す分類にChild-Pugh分類があります。A~Cに分けられ、肝臓の状態が悪いと治療を受けることが難しくなります。具体的には、Child-Pugh分類A・Bまでが治療対象となることが多くCになると肝移植か緩和治療のみとなります。

①手術

他の臓器に転移しておらず、切除可能と判断された場合は手術の適応になります。

大きさに制限はありませんが個数は3個までで切除可能な範囲にあることが条件となります。また、肝臓を切除するため術後に肝機能が保たれなければ肝不全に陥ってしまうため、Child-Pugh分類や他の検査を組み合わせて肝臓の予備力を算出して手術の適応を判断します。

手術は根治を目指せる治療ですが、術後に再発することが多く術後2年以内に約70%で再発するといわれています。

再発した場合は多くは残った肝臓に再発することが多く、追加手術もしくは以下で説明するRFAやTACEで治療を行います。

腹腔鏡下手術やロボット支援手術など外科領域でも治療技術が進歩してきています。

②ラジオ波焼灼療法(RFA)

超音波検査で肝臓を見ながら特殊な針を刺して先端を高熱にして腫瘍を焼灼する治療です(温度は60℃程度でゆで卵を作るくらいの温度感です)。3㎝以下、3個以下が条件となり、根治が目指せる治療方法の一つで手術と比較して低侵襲で肝臓の容量が減少することもないというメリットがあります。腫瘍の部位によっては穿刺が困難な場合があることが注意点です。

③肝動脈化学塞栓療法(TACE)

肝臓は約7割が門脈、3割が肝動脈で栄養されているのですが、肝細胞癌はほとんどが肝動脈により栄養されています。

TACEは肝細胞癌を栄養している肝動脈をカテーテルで塞栓して癌細胞を兵糧攻めにする方法です。肝動脈を塞栓しても肝臓は門脈で栄養されているので血流が保たれて、癌に集中してダメージを与えることが出来ます。また、塞栓物質に抗癌剤を混ぜて効果をより高めます。

多くは足の付け根の鼠径部からカテーテルを挿入して行います。腫瘍の大きさや数に関わらずに可能な治療で汎用性が高いのですが、根治治療にはなりにくいことと何度も繰り返し行うと肝臓にもダメージが蓄積して肝機能が低下することに繋がるというデメリットがあります。他の臓器に転移はないものの手術やRFAが困難なChild-Pugh分類A,Bの症例が適応になります。

④薬物療法

薬物治療は他の臓器に転移している場合や、TACEが不応とされる場合に適応となります。

近年著しく発展してきている領域で、かつてはソラフェニブという1種類の薬剤のみ使用されていましたが2018年からレンバチニブという別の薬が登場しそれを皮切りにどんどんと新薬が出てきて現在は免疫療法という新たな作用機序の薬剤も適応になっています。新薬の登場により効果が高くなり予後の延長が期待できるようになってきています

余談ですが、
Up-to-7という考え方があり、腫瘍の最大径と個数の和が7以下であればTACE、7以上であれば薬物療法が適していると考えられています。

⑤肝移植

肝臓は7割切除しても再生するといわれており、健康な肝臓を提供してもらって自身の身体に移植する方法になります。適応基準は‘‘不治の末期状態にあり原則として従来の治療方法では余命1年以下と予想されること‘‘となっており、さらに肝細胞癌が5㎝以下かつ5個以下かつAFP(腫瘍マーカー)500ng/mL以下が条件になります。他にも多数の条件がありますが、何より臓器を提供してくれる人(ドナー)が見つかるかどうかが難しい問題です。

日本では脳死肝移植者数が極めて少なく、親族からの生体肝移植が主流です。

100万人当たりの脳死臓器提供者数は日本では0.5人。アメリカでは20人、韓国では17-18人です。

4 肝細胞癌の予後

肝細胞癌と診断されたら、あとどのくらい命が残されているのか気になると思います。個人差がありあくまで目安として捉えていただきたいのですが、日本での集計報告(第23回全国原発性肝癌追跡調査報告)から以下引用しています。

2010-2015年の間に登録された肝細胞癌と診断された方の5年生存率は63.4%でした。かつて、1986-1993年の期間では5年生存率は25.5%(生存期間は約25ヵ月)であったことを考えるとかなり向上しており、現在はさらに成績がよくなっているものと考えられます。診断されたときの年齢やステージ、治療法など個々に差は大きいですが総数での結果になります。

また、Child-PughAで肝切除後の方の予後は約104ヶ月(約8.6年)で5年生存率は70.6%、10年生存率は43.6%でした(2014-2015年追跡調査報告)。

5 まとめ

肝細胞癌についてひと通りまとめました。

肝細胞癌は予後不良な癌と言われますが手術以外にもRFA、TACEといった特有の治療法があり、更にここ最近で薬物療法が進歩してきているので予後は改善傾向になると思います。また、C型肝炎の治療薬が開発されてから肝細胞癌の患者さんは格段に減った印象があります。

とはいえ進行癌で発見された場合は予後は厳しいです。どの癌でも同じですが早期発見が何より大事ですので、B型肝炎、C型肝炎に感染していないかどうかは調べておいてください!また日常的な多量飲酒や過食もリスクになりますので控えるようにしてくださいね。

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