こんにちは、消化器内科医のべっちょむです。
これまで、肝硬変シリーズとして肝硬変の検査と診断、症状、治療について説明してきました。
ところでどんな人が肝硬変になるの?リスク因子は?という、そもそものところをあまりお伝えしてこなかったので、今回は肝硬変の原因について解説していきたいと思います。
この記事を書いた人
べっちょむ先生
資格:内科専門医、消化器病専門医、消化器内視鏡専門医、肝臓専門医。FP2級、簿記3級。
消化器内科を専門とし、病気だけでなく患者さんを幅広く診れる医師でありたいという思いから、2024年4月から訪問診療を行っています。
一児の父。映画鑑賞と温泉が至福の時。ゴルフとキックボクシングもやってます。
1 肝硬変の原因の推移
肝硬変の原因には肝炎ウイルス(B型肝炎、C型肝炎)、アルコール性、NASH、自己免疫性肝炎(AIH、PBC)に大きく分けられます。
NASHは脂肪肝が原因の肝硬変のことですね
上のグラフを見ていただけると分かるように、ここ数年でC型肝炎の割合が減少して原因の一位がアルコール性に置き変わりNASHの比率も増加しています。これはC型肝炎のDAA(直接作用型抗ウイルス薬)という新薬が開発されたことによる功績で今後はC型肝炎は撲滅できる疾患になってきています。
ちなみに、2008年ではC型肝炎60.9%、アルコール性13.6%、NASH2.1%とC型肝炎の割合がもっと高かったです。
2 肝硬変の原因
①C型肝炎
かつて(昭和39年~平成6年)使用された止血用の血液製剤はC型肝炎のリスクが高く、出産や手術の際に多くの方が感染してしまうということがありました。現在は輸血製剤への放射線照射により輸血関連の感染はほぼなくなっており、感染の経路としてはウイルスに汚染された器具を用いて皮膚を傷つける行為(刺青やピアス、覚醒剤の注射針の回し打ちなど)が原因となることが多いです。
ワクチンはありませんが治療薬が飛躍的に進歩しており、かつてはインターフェロンが中心で副作用が多く完治率も高くなかったのですが、近年DAA(直接作用型抗ウイルス薬)という新規薬が登場して副作用をほとんど気にすることなくウイルス排除率は99%と非常に高い薬です!
②B型肝炎
B型肝炎は免疫機能が未熟な時期に感染することが多く、B型肝炎ウイルスに感染した母親からの出生時の感染(垂直感染)と乳幼児期に血液や唾液で感染(水平感染)することが多かったです。また、昭和23年~63年の間に7歳未満で集団予防接種を受けた方でB型肝炎に感染するということもありました。現在は母親が感染している場合にはワクチンや免疫グロブリンなどで予防できるようになっており、新規感染の原因は成人になってからの性交渉が多いです。
B型肝炎ウイルスにはワクチンがあり、日本では2016年10月から赤ちゃんへの定期接種の対象になっています。また、医療従事者やパートナーがB型肝炎ウイルスに感染している場合など感染のリスクの高い方も接種の対象になります。
ちなみに、感染しても慢性化しない場合やキャリアとよばれる状態であれば治療の対象にはなりません。しかし、慢性化した場合や肝硬変に至っている場合には、DNA量などにもよりますが核酸アナログ製剤やインターフェロンによる治療の対象となります。
これらの治療薬を開始した場合、ウイルスを排除できて内服を中止できるまでになることはほとんどなく、生涯に渡り薬を飲み続けることになります。
③アルコール性
アルコールを摂取すると肝臓に中性脂肪が蓄積して脂肪肝になります。目安としてエタノール60g/日(日本酒3合、ビール中瓶3本、ワイングラス5杯)を5年以上飲酒していると肝障害を起こすと言われており、日本酒5合を毎日10年以上飲んでいると肝硬変のリスクが高くなると言われています。いわゆる「大酒家」と呼ばれる方になります。
節酒もしくは断酒が唯一の治療になりますが、お酒を控えていても少し飲むと徐々に量が増えてすぐにまた元の量になってしまうものですから、節酒より断酒が望ましいです。
また、アルコールは依存性がある物質であり、いわゆる「アルコール依存状態」に陥っている場合には自分ではコントロールできなくなっています。その場合は、家族の協力や断酒会への参加、断酒専門のクリニックへの通院や専門施設への入所を考慮する必要があります。
④NASH(非アルコール性脂肪肝炎)
過食、肥満という状態でメタボリックシンドロームや糖尿病、高血圧など同時に起こしていることが多いです。肝細胞に脂肪が蓄積した状態をNAFLDというのですが、その中でも肝硬変に至ってしまったNASHという状態が約10%にみられます。
治療方法は脂肪肝といわれたら・・・治す方法4選!をみてみてください。
⑤自己免疫性(AIH、PBC)
自分の体の中の抗体が自身の肝臓を攻撃してしまう疾患で、自己免疫性肝炎(AIH)と原発性胆汁性胆管炎(PBC)という疾患があります。AIHは肝細胞を、PBCは胆管細胞を攻撃するという違いがありますが、どちらも50歳代の女性に多い疾患で進行すると肝硬変になります。症状はないことがほとんどで血液検査で肝臓の数値が高いといわれて原因を調べて診断に至ることが多いです。血液検査で概ね診断はできますが、確定診断には肝生検が必要になります。
肝生検は肝臓に針を刺して顕微鏡の検査に出す検査ですね
治療はAIHではステロイドとウルソデオキシコール酸、PBCではウルソデオキシコール酸の内服になります。
3 まとめ
今回は肝硬変の原因についてお伝えしました。
ウイルス感染はかつてに比べて予防や治療が出来るようになってきており、アルコール性やNASHが増加してきています。これらは不摂生を注意すれば防げますし、自己免疫性の疾患も健診などで肝臓の数値が高いことを指摘されて早期に治療介入できれば肝硬変になることを防げることも少なくありません。
癌ではありませんが肝硬変は同じくらい怖い病気です。せっかく医療が進歩してきているので、予防できるところはしっかり予防していきましょう!
コメント