こないだの健康診断で肝臓の数値が高いって言われたけど、お酒飲みすぎたのかな…
肝臓は沈黙の臓器って聞いたことがあります。
よく健康診断で肝臓の数値が高いと指摘されて来院される方がおられます。肝臓の数値が高いとはどういうことなのか、説明していきますね!
この記事を書いた人
べっちょむ先生
資格:内科専門医、消化器病専門医、消化器内視鏡専門医、肝臓専門医。FP2級、簿記3級。
消化器内科を専門とし、病気だけでなく患者さんを幅広く診れる医師でありたいという思いから、2024年4月から訪問診療を行っています。
一児の父。映画鑑賞と温泉が至福の時。ゴルフとキックボクシングもやってます。
1 肝酵素とは?
肝酵素はASTやALTと言われるもので、まとめてトランスアミナーゼと呼ばれたり、昔はGOT(=AST)、GTP(=ALT)と言われていました。これらは肝臓の細胞(肝細胞)の中でアミノ酸代謝の働きをしていて、肝細胞が破壊されると血液中に流れ出て、採血で肝酵素上昇として表されます。他にも、γGTPという数値があり「お酒の数値」として知っている方もいると思います。
①AST
実はASTは肝臓以外でも、心臓や筋肉、赤血球などにも含まれており、心筋梗塞や筋トレ、過度のトレーニング、また採血を採るときに細い針を使ったり強く引きすぎたりすると赤血球が壊れて(溶血)してASTが上昇することがあります。
②ALT
一方で、ALTは基本的に肝臓だけに含まれる酵素ですので、高値の場合は肝臓に何らかの異常があると考えます。
ASTに比べて半減期(半分の量になるのに要する時間)が長いため、急性肝炎の時にALT>ASTであればピークは過ぎたという判断をしたりするのに参考にすることがあります。
③γGTP
お酒の数値としてよく知られており、大量に飲酒される方ではγGTPが特に高値になりやすく同時にAST, ALTも上昇します。また、「胆道系酵素」と呼ばれることもあり、アルコール以外にも閉塞性黄疸という胆汁がうっ滞する病態でも上昇します。
2 肝酵素が上昇する原因
健診で肝臓の数値が高いと言われた場合、アルコール性肝障害、非アルコール性脂肪肝、肝炎ウイルス感染(B型肝炎、C型肝炎)のどれかであることがほとんどです。
①アルコール性肝障害
アルコールを摂取すると肝臓に負担がかかって中性脂肪が蓄積して、太ってなくても脂肪肝になるんです。目安としてエタノール60g/日(日本酒3合、ビール中瓶3本、ワイングラス5杯)を5年以上飲酒していると肝障害を起こすと言われています。ただし、女性や遺伝的にお酒に弱い人は40g/日程度でも肝障害を起こしうるので要注意です。
②非アルコール性脂肪肝
これは単純に食べすぎ、肥満という状態でメタボリックシンドロームや糖尿病、高血圧など同時に起こしていることが多いです。アルコール摂取量が多くない(エタノール換算20g/日以下)ことが特徴です。
脂肪肝はエコー検査で見ると肝臓が白く光って見えるので、ブライトリバー(Bright liver)と言われます。
脂肪肝については脂肪肝といわれたら…治す方法4選!を参考にしてください。
③肝炎ウイルス感染(B型肝炎、C型肝炎)
かつては出産や手術での大量出血の際に使用した輸血製剤にC型肝炎ウイルスが混入しており多くの方が感染してしまうということがありました。最近では輸血製剤への放射線照射により輸血関連の感染はほぼなくなり、母子感染もワクチン接種などでほとんど予防できるようになっています。
新規感染の経路としては性行為感染や覚醒剤の注射針の回し打ちなどが原因となることが多いです。
他にも肝障害の原因として、他のウイルス(A型肝炎、E型肝炎、EBウイルス、サイトメガロウイルスetc..)、自己免疫性肝炎、薬剤性肝障害などがありますが今回は病名の紹介に留めておきます。
3 治療方法
原因は何であれ、肝酵素が高いということは肝細胞が破壊されているということです。
肝酵素は余程高くならない限り症状はでません。
沈黙の臓器と言われるのはこのためですね
この状態が半年以上続くと慢性肝炎という状態になり、何年も持続するとしまいには破壊される肝細胞がなくなって肝臓がシワシワ状態になり、肝硬変という状態になります。
肝硬変になると元には戻りませんし、様々な問題が生じて長生きは期待できません。
そうなる前に治療しておきましょう!
①アルコール性肝障害
節酒もしくは断酒が唯一の治療になります。
お酒を控えていても少し飲むと徐々に量が増えてすぐにまた元の量になってしまうものですから、節酒より断酒が望ましいです。
また、アルコールは依存性がある物質であり、いわゆる「アルコール依存状態」に陥っている場合には自分ではコントロールできなくなっています。その場合は、家族の協力や断酒会への参加、断酒専門のクリニックへの通院や専門施設への入所を考慮する必要があります。
②非アルコール性脂肪肝
治療は減量一択です。
食事療法、運動療法を真面目にやっていただくしかありません。。
がんばりましょう!
③肝炎ウイルス感染(B型肝炎、C型肝炎)
B型肝炎ウイルス
B型肝炎ウイルスにはワクチンがあり、日本では2016年10月から赤ちゃんへの定期接種の対象になっています。また、医療従事者やパートナーがB型肝炎ウイルスに感染している場合など感染のリスクの高い方も接種の対象になります。
ちなみに、感染しても慢性化しない場合やキャリアとよばれる状態であれば治療の対象にはなりません。しかし、慢性化した場合や肝硬変に至っている場合には、DNA量などにもよりますが核酸アナログ製剤やインターフェロンによる治療の対象となります。
これらの治療薬を開始した場合、ウイルスを排除できて内服を中止できるまでになることはほとんどなく、生涯に渡り薬を飲み続けることになります。
C型肝炎ウイルス
C型肝炎ウイルスのワクチンは残念ながらありません。
しかし、治療薬が飛躍的に進歩しており、かつてはインターフェロンが中心で副作用が多く完治率も高くなかったのですが、近年DAA(直接作用型抗ウイルス薬)という新規薬が登場して副作用をほとんど気にすることなくウイルス排除率は99%まで到達しています。
B型肝炎やC型肝炎の治療は高額ですが、基本的に給付金の対象となりますので安心してください。
4 まとめ
健康診断で肝臓の数値が高いと指摘されることは少なくないと思います。高いと指摘された場合は、原因が何かを把握しておく必要がありますので、一度医療機関を受診するようにしてください。専門は消化器内科になります。
肝臓は最も大きい臓器でたくさんの働きをしています。肝障害があっても無症状だからと放っておくと最終的に肝硬変という非常に恐ろしい状態になることがありますので、侮らないようにしてください。
次回は、黄疸について解説したいと思います!
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