こんにちは、消化器内科医のべっちょむです。
前回は認知症の中核症状という、認知症になればいずれは起こる症状について説明しました。
その中核症状をもとに、その人の性格や環境、ストレスや不安などが絡み合って出現する様々な症状のことを周辺症状(BPSD)といい、これにより家族や介護者が悩まされることが多いです。
今回は、周辺症状(BPSD)について解説していきたいと思います!
この記事を書いた人
べっちょむ先生
資格:内科専門医、消化器病専門医、消化器内視鏡専門医、肝臓専門医。FP2級、簿記3級。
消化器内科を専門とし、病気だけでなく患者さんを幅広く診れる医師でありたいという思いから、2024年4月から訪問診療を行っています。
一児の父。映画鑑賞と温泉が至福の時。ゴルフとキックボクシングもやってます。
1 認知症の周辺症状(BPSD)
周辺症状は、別名「行動・心理症状」といわれ、中核症状をもとに二次的に現れる様々な行動や心理的な症状を指します。8項目に分けて、症状の概要と対応方法について述べていきます。
①暴言・暴力
認知症になると、今まで出来ていたことが出来ないことにイライラしたり、感情のコントロールがつきにくくなって、ささいなことで怒って暴言を吐いたり、暴力を振るうことがあります。特に前頭側頭型認知症に多い症状ですが、アルツハイマー型認知症などでもストレスが溜まると起こることがあります。今まで穏やかだった人が急に別人に変わったように怒ったりするので家族がショックを受けるということもしばしばあります。
まずは、患者の暴言や暴力に対して介護者が冷静を保つことが重要です。感情的にならずに穏やかに対応しましょう。そして、暴言や暴力の背景にある原因を特定して対応していきます。精神的ストレス(できないことに対する苛立ちや不安)や身体的ストレス(痛みや疲れ、空腹など)、環境の変化などが原因になることが多いです。
②介護拒否
認知症になり食事や入浴など今まで通りに出来なくなると介護が必要になります。しかし、本人は出来なくなっていることを受け入れたくないという気持ちや人に頼らないといけないという情けなさ、またできないことに対する苛立ちや不満を抱えています。その結果、介護を拒否するという行動が現れてしまいます。
2歳児のイヤイヤ期みたいな感じと思ってもらえればいいかと思いますが、子供と違って成長して治まることがないのが辛いところです。
基本的なことですが、まずは患者さんの気持ちや立場になって、不安や抵抗を感じていることが何かを探ってあげることが大事です。そして、拒否する場合に無理に介護を進めようとせずにしばらく時間を置いてから再度試みたりとゆっくり進めていくことも必要になってきます。また、日常のルーティンを設定して毎日の予定を予測可能にすることで安心感が得られスムーズに進むこともあります。
③帰宅願望
施設に入所されている方であれば自宅に帰りたい、自宅にいる場合は昔いた実家に帰りたいという願望を訴えることが多いです。何らかの不安があって、安心できる場所に帰りたいという気持ちの表れだと思います。
家を出て行って徘徊する原因になったり、施設で荷物を纏めて身支度し始めるなんてことをして周りが困ることが多いです。
今いる環境や自身の状態に何らかの不安感があることが原因のことが多いので、安心感を与えてあげることが解決につながることが多いです。穏やかな口調で話したり、家族の写真や思い出の品を見せたり置いておくことで安心感を持ちやすくなります。また、家に帰るという具体的な説明や否定を避けて「もう少し休んでから帰ろうね」という風にやんわりと気を逸らせてあげるのもいいです。
④徘徊
帰宅願望が原因で徘徊する場合や、運動不足でストレスが溜まっている場合、普通に買い物などで外出して家の場所が思い出せずに帰れないということも多いです。
認知症による徘徊で1年に1万7千人以上が行方不明になっており、家族が探して見つかっているケースも当然多いので相当な数の徘徊が起こっていることに驚きます。これが原因で家で介護することが難しくなることも多いです。
不安が原因で徘徊してしまう場合は安心感を与えてあげることが大事なので③帰宅願望を参考にしてください。運動不足でストレスが溜まってしまっている場合は散歩や軽い体操でエネルギーを発散すると徘徊欲求の軽減に効果的です。また、徘徊しないように扉や窓にアラームを設置したり鍵をかけることで外出を予防できたり、外出した場合でも居場所を把握できるようにGPS機能を持つ追跡デバイスを使用することが有効です。
⑤失禁
ご高齢になるとトイレが近くなるということに加えて、認知症が進行すると運動機能が低下して移動に時間がかかってしまってトイレに間に合わないことや、「トイレの場所が分からない」、「尿意が認識できない」ということが起きて失禁してしまいます。
トイレの場所を認識しやすように標識を付けたり、夜間に失禁してしまう場合には照明を付けておくなどの工夫で解決できることも多いです。また、早めにトイレに誘導してあげたり、決まった時間にトイレに行くような習慣をつける、もしくはオムツを使用するようにするといいです。
⑥幻覚・せん妄、もの盗られ妄想
幻覚には幻視や幻聴などがあり、特にレビー小体型認知症で起こりやすいですがいずれの認知症でも起こります。「そこで子供が遊んでいる」、「誰かが悪口を言っている」などを言い出すと注意が必要です。
また、時間や場所が分からなくなり興奮したり暴れたりといった行動を起こすことがあり介護者が手を焼くことがあります。財布などしまった場所が思い出せない、もしくはしまったことをすっかり忘れてしまって誰か(家族など)に盗まれたと言って騒ぎ出すことがあり、アルツハイマー型認知症に多い症状でもの盗られ妄想といいます。
幻覚やせん妄に対しては何かしらの不安や落ち着かない状況があることが原因になることが多いので、穏やかで安心感のある態度で接したり、カレンダーや好きなもの、家族との思い出の写真や品物を近くに置いてあげると軽減できることも多いです。
もの盗られ妄想に対しては、否定せずに共感して一緒に探してあげると安心感を与えられます(実際には探しているふりをするだけでも効果的なことが多いです)。また、よく使うものや大事なものは簡単に見つけられる場所に定位置に置いておくとよいでしょう。
⑦不安・抑うつ
認知症になりできないことが増えると不安な気持ちになったり、気分が落ち込みやすくなり抑うつ状態になることがあります。それに伴い、食欲が低下することもあります。
患者さんが落ち着いて穏やかに過ごせる環境を整え、周囲の人も本人の話をよく聞いて共感してあげることが大事です。また、楽しめる趣味や運動をしたり、家族や友人との交流を増やすことで孤立感を軽減してあげることも有効です。
⑧睡眠障害
脳内の睡眠を司る機能が低下して夜に寝付けない、ひどくなると昼夜逆転して夜にそわそわしだして家の中を歩き回ったりします。家族は夜に心配で眠れなくなり、朝になると本人はぐっすり眠っているのに仕事に行かなければならない場合にはとてもしんどい状態になります。
睡眠障害に対しては一般的な対策と同じで、規則正しい生活リズムを整えたり昼寝をせずに日中に活動する、寝る前にテレビやスマホを見ないなどを心掛けます。最近は依存形成や筋弛緩作用(転倒の原因)の少ない睡眠薬もありますので、なかなか改善しない場合にはお薬に頼ってみるのも良いでしょう。
2 周辺症状への関わり方
認知症の中核症状をもとに、周辺症状は様々な症状が現れて周りを困らせます。ただ、中核症状は病気の進行に伴って抑えられないのに対して周辺症状は関わり方次第で軽減できるものもあります。
それぞれの症状に対して主に非薬物療法を紹介してきましたが、薬で症状を軽減できることも少なくないですので医師に相談して薬物療法を取り入れるも良いでしょう。
3 まとめ
2023年末に「レカネマブ」という認知症の新薬も保険承認が得られたりと医学も進歩していますが、それもまだ認知症の進行を抑制することを目的としており治療して元に戻すことは難しいのが現状です。
認知症について起こり得る症状について理解して、本人を責めるのではなくどうやってうまく付き合っていくかを考えることが大事だと思います。
また、症状が強く継続的に出る場合や介護が難しい場合には在宅介護の限界というものもありますので、施設への入所を考えるのも一つの選択肢です。認知症患者の介護を行うことは大変で疲労が溜まります。でも介護者が健康であることが認知症患者のケアにとって最良のケアになります。無理をせず、支援を求めることにためらわず様々な選択肢を考えて取り入れていきましょう。